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胸が痛む。
何故痛むのか…その原因を知ったのは、最近だ。
理由も原因も分かりきっていて、それでも…オレは、治す事もできないまま。
目の前にいる王子殿下が原因であり、オレがどうしてこうなったのかも、どうしたいのかも分かっている。
けれど。
オレが特別に、なんて…有り得ない事なのだ。
だから治す事も出来ずに、ここまでやってきた。治す見込みなんかなくとも、オレは。
ずっと目を逸らしたままで居る事も気まずくなり、オレは王子に目を向けた。
「……まぁ、そんだけ言い切れる軍主がいりゃあ、ここも安泰…だな」
「そ、そうですか?ありがとうございます」
オレの言葉に王子はどこか恥ずかしそうに微笑む。
そんな王子の表情も見慣れているはずなのに、気付けばオレは、再び目を逸らしていた。
(毎回毎回…オレも成長しねぇな)
心の中で自分自身に呆れ返ってから、目を逸らした事を誤魔化すかのように言葉を紡ぐ。
「あー、あのよ」
「はい?」
「家族があるってのは…羨ましい、よな」
「え?」
ふと思いついた言葉ではあったが、ある意味本音ともいえる事を呟いてしまった。
家族が、仲間が、何よりも大切な王子。
その事に対する皮肉だったのか、どこか羨ましがる自分がいたからか。
どこか自嘲気味に笑って、思いついた言葉を口に出していた。
「生憎オレにはそんなもん…」
「いますよ?」
「あ?」
しかし、オレの言葉は難なく王子に遮られ。
そこで漸く王子に目を向けると、王子はきょとんとした顔をしたまま、答えたのだ。
「シグレさんの家族。探偵事務所の皆さんがそうじゃないですか」
さも当然だと言わんばかりに、王子はにっこりと微笑む。
オレは王子の言葉と表情の両方に動揺しながらも、何とか言葉を出そうと努力した。
「……あー……かも、な」
しかし、出てきた言葉といえば何ともいえない、場を濁すような返答だけ。
それでも王子は気にする様子もなく、微笑んだままでオレを見上げていた。
「かも、じゃなくてそうですよ。僕の方こそ羨ましいです。あんな素敵な家族がいて」
王子の口から『羨ましい』などという言葉を聞いて、オレは心底驚いた。
(何言ってんだ、お前の方が…たとえもういなくとも、離れていても、オレなんかよりずっと…)
そう口に出しそうになり、慌てて口を結ぶ。王子はオレを見上げたまま。
きっとこいつには言っても分からないだろう。分からなくて良い事だ、「羨ましい」、なんて。
お前に想われている相手達が羨ましい、なんて…言える訳もない。
そう考え直し、先刻からずっとオレを見つめている王子に何を言ったら良いものか、と考えた挙句…オレは、ぽつりと呟いた。
「……その、だな」
「?」
「お前も、その一員だろうが」
思わず。
思わず、そう答えていた。
王子は驚いたようにオレを見上げるが…オレ自身も、驚いていた。
勝手に羨ましがった結果、こんな答えを出すなんて…馬鹿としか言いようがない。
だが、もう言ってしまったものは仕方がない。無理矢理そう思い直して、驚いた王子をちらりと見やる。
「え…、僕が!?」
「あァ。あんだけウチに入り浸って、しかもあいつら全員に気に入られてんだ。お前も家族でいいんじゃねぇのか?」
こうなったら、もう自棄だ。
オレは思いつくままに言葉を並べ、我ながら思い切った事ばかりを言っているものだ、と笑うしかなかった。
けれど、言った事が全て嘘という訳でもなく…きっと、どこかでそうなったら、と考えている自分がいたのだ。
こいつが…オレの、オレ達の家族であったなら、なんて。
「あ…ありがとうございます!」
「何で礼言うんだよ」
「嬉しかったからに決まってるじゃないですかっ!あの、つまり、探偵事務所の皆さんが、僕の二番目の家族って事でいいんですよね?」
そんなオレの考えなど知る由もない王子は、嬉しそうににこにこと微笑んでいる。
本当に、嬉しそうに笑うものだ。
思いつきで言った言葉でここまで喜ばれると、悪い気はしない。むしろ…嬉しい、と思えた。
自分にそんな感情がきちんと残っている事に驚きつつも、オレは何とか返事を返す。
「あァ。…いいんじゃねーのか」
「ありがとうございます、シグレさん!じゃあ、シグレさんも僕の大事な家族って事ですよね」
家族。
王子の口から、オレに対してその言葉が使われるとは思ってもみなかった。
それだけで、オレには十分だった。
特別に、なんて無理だと思っていたはずが…それが、叶ってしまうなんて。
それだけで。
「っ、お、おぅ。オレにとっても…お前は、大事な…家族だ」
「はいっ!」
本当に嬉しそうに、満足気に微笑う王子。
それを見て、オレも薄らと笑みを浮かべた。
初めて、こいつの前で笑えたかもしれない。そんな事を思いながら。
家族、仲間…それだけで、いい。
仲間として、家族として。そうやってこいつを守っていけるのならば、それで良い。
そう素直に思えたのも、きっと…オレの予想を超える答えをくれた、王子のおかげなのだろう。
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ここまでお付き合い下さった皆様、ありがとうございます!
どうも上手く纏められていない感がありますが…
(文って難しい…)
シグレは王子の大事な人、という事にしたかったのです。