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2年くらい前に無料配布した城表その1。
* * * * *
「…なぁ遊戯」
「ん、何?城之内くん」
顔も上げずにデッキを組みながら返事をしたせいか、中々返事が返ってこない。
悪いことしたかな、と手を止めて顔を上げてみれば、案の定不機嫌そうにこっちを睨む城之内くんと目が合った。
「あ、えーと」
「それやめねー?」
「へっ?」
謝ろうかと口を開いたところで、城之内くんの言葉に遮られた。
それはいつもの事だけど(なんというか、話を聞かないところがあるんだよね)、どうやらボクの予想は間違っていたみたいだ。
不機嫌である事には変わりないんだけれど、何かが違う。それが何かは分からなくて、結局聞いてしまうのだけど。
「それ、って何が?」
そう聞き返せば、盛大な溜息を吐かれた。
がっくりと肩を落として俯いてしまった城之内くんの姿に驚いて持っていたカードを落としてしまったけど、その時は拾おうという考えが浮かんでこなかった。
「……あーあ、分っかんねェかなぁ」
「う、うん、ゴメン」
思わず謝ってしまうボクを見て、城之内くんは再び溜息を吐いた。
何が何だかさっぱり要領を得ないけれども、どうやら城之内くんの言いたかった事はとても重要だったらしい。
しかしボクには伝わってないのだから意味がないというか…。
けれども城之内くんはいつだって前向きな人だから、これくらいでめげる訳でもない。
ふうー、なんて聞こえるように息を吐いてからしっかりと前を向いて、こちらをしっかりと見つめて口を開いた。
「呼び方だよ、呼び方。オレは遊戯、って名前で呼んでんのに、遊戯はオレの事苗字で呼ぶだろ」
「そう…だね、言われてみれば」
あっさりと種明かしをする彼は、相も変わらず不機嫌そうな表情だ。
それでもしっかりと答えを教えてくれるのだから、何だかんだ言っても優しいなぁ、と思う。
ついつい笑みが零れれば、それを見逃す筈もない城之内くんはなんだよ、と睨みつけてくる。凄んだって怖くないのに。
「とにかく、だ」
「うん、何?」
「そーゆーワケで、名前で呼んでくれ、って事だ!」
きっぱりと言い切って、さっきまでの態度は何処へやら。城之内くんは期待に満ちた、きらきらと輝いた瞳を向けてくる。なんて分かりやすい反応だろう。
これはつまり、今この場で呼んでくれ、という事なんだろうか。
(名前、かぁ)
言われてみればその通りだ。ボクは城之内くんのことを一度も名前で呼んだ事がない。「城之内くん」と呼ぶのが当たり前になっている。(思えば他の友達も苗字で呼んでいる)
当たり前だけど、名前って、大事なものだと思う。
もう一人のボク…アテムの為に、彼自身の名前を取り戻す為に戦った事は記憶に新しい。
名前って、その人を示す大事な、特別なもので、身体の一部分といっても過言ではない、とボクは考えている。
だから城之内くんの提案は当然の事で、ボクも呼んでみたいとは思う。思うけれど。
「えぇ、と」
「……まさかオレの名前忘れたとか言うんじゃねーよな?」
「ちゃんと覚えてるよ!覚えてる、けど」
口篭ると、城之内くんはまたしても拗ねるような不機嫌な顔になってしまった。
そりゃあそうだよね、名前を呼んでくれって言ったのにボクが呼ばないんだから。
けれどボクにだって心の準備ってものがいるんだ。だって、名前は特別で。
「そのぉ…」
「何だよ遊戯、何で呼んでくんねーんだよ」
「……だって、」
(大事な、大好きな人の名前を呼ぶのって、すごく恥ずかしいじゃないか)
聞こえないくらいに小さく呟いた言葉は、どうやら城之内くんには筒抜けだったらしい。(なんて耳がいいんだろう!)
ボクの言葉を聞いて、不機嫌そうな表情はぱあっと輝いたものへと変わる。本当に、すぐ顔に出るよね、って今度はボクが拗ねる番だった。
けれどそんな事を言っても無駄だろう。だって、今のボクはきっと耳まで真赤になっている。
目を合わせるのも気恥ずかしくなって俯けば、突然抱き締められて身動きが取れなくなった。
「ちょ、ちょっと城之内くん!」
「名前で呼んだら離してやるって!な!」
恥ずかしいと思っていた事も忘れて顔を上げれば、そこには満面の笑みを浮かべる城之内くんの姿があった。
不意打ちだ。
城之内くんの笑顔はきらきらしてて、ボクの大好きな表情のひとつ。
それをこんな間近で見せられたら、どうしたらいいのか分からない。動けない。ううん、動きたくないんだ、きっと。
(もう…大好きだ、克也くん!)
言葉には出来なかったけれど、そう想いを込めて。ボクは、城之内くんにぎゅっと抱きついたのだった。
* * *
城表には毎日いちゃついててほしいのです
可愛くて仕方ない。