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バレンタインということで左右日~
今回の左右田くんは攻めっぽく…なってる つもりです。





* * * * *

「うーん…」

ロケットパンチマーケットで材料を買い、ホテル旧館の厨房へとやってきたのはいいものの、さてどうしたものかと頭を掻いた。
レシピもマーケットにあった本を調達してきたし、あとは作るだけなのだが…

「まさか自分がお菓子作りをすることになるとは思いもしなかったな…」

独り言を呟いて、はあ、と溜め息をひとつ。
男一人で、しかも恋人の為にお菓子を作ることになるなんて誰が予想しただろうか。
同性の恋人が出来たというだけでも驚きだが、自分の行動には驚きを通り越して呆れ返る。

(いやでも、自分でやろうと考えたわけじゃないし)

そうだ、唆されたんだ、と責任転嫁。
切欠は何だったかと言われれば、突然花村に話しかけられたのが始まりだった。
レストランで朝食をとり、仲間たちもぱらぱらと席を立ち、俺もそろそろ移動するかと立ち上がった時のこと。
花村が笑顔でこちらへとやってきて、こう言ったのだ。

「日向くんは左右田くんにチョコを贈るんでしょ?」

…と。
言葉の意味が分からずにぽかんとしていると、花村は「あれ?忘れてる?」と不思議そうに俺に質問してきた。

「ええと…忘れてるって、何をだ?」
「あー、やっぱり忘れてるね?日向くん、恋人がいる身としてそれは失格だよ!」

ツッコミを入れたいところは多々あったけれど(どうして恋人がいると知っているのか、というか何故相手が左右田だと知っているのか)一番気になった部分を突いてみようと俺は口を開く。

「いやだから、何を忘れてるって言うんだよ」
「フフ…そんなの決まってるじゃあありませんか!ヴァ・レ・ン・タ・イ・ン、だよ日向くん!」

一字一句はっきりと心底楽しそうに告げる花村とは逆に、俺は意味が分からず目を瞬かせる。
(ばれんたいん…バレンタイン!?)
あまり自分に縁のない言葉だったせいか理解するのに時間がかかってしまったが、バレンタインという単語の意味にはっとする。

「って、何で俺がチョコを作るんだよ!女の子がやることだろ!」
「そういう細かいことは気にせずに行こうよ日向くん、愛し合う者同士なら何ら問題なんてないよ!」
「……」

朗らかに笑って言われても、まるで説得力がない。
そもそも男同士なのだからチョコを作って贈る意味もないだろうに、というのが正直なところだ。
しかしそんな俺の考えはお見通しだとでも言うように花村は大袈裟に溜息を吐いた。

「案ずるより産むが易し、だよ日向くん。まずは作ってみればいいじゃない?左右田くんも喜ぶと思うしさ。あ、チョコが無理ならマフィンとかクッキーでもいいんじゃない?」

てっきり馬鹿にされるかと思いきやアドバイスまでしてくれた花村は、言いたいことを言ってスッキリした表情で
「それじゃ、がんばって。報告待ってるから!渡した後の二人の時間をじっくり聞かせてもらうから!」なんて恐ろしいことを言いながら去って行った。
俺が菓子を作るというのが確定になっていることに衝撃を受けたものの、花村の『左右田が喜ぶ』という言葉に心が揺らぐ。

「…まあ、時間もあるし、な。うん」

こんなことで花村の策に乗るなんて悔しいが、左右田が喜ぶなら仕方ない、やってやるかと思ってしまった俺なのだった。




* * *



結局のところ、初の菓子作りは成功した。
マフィンを作ってみたところ、なんとか見れる形のものが出来た…しかも大量に、だ。
失敗すると踏んで多めに作ったのだが、運良くどれも(一応は)食べられるものが出来たのだ。
それなら、と左右田に渡す分は結構うまくいった(と思われる)チョコチップを入れたものにして、その他はみんなで一緒に食べればいいかと結論付ける。
材料と一緒に買った紙袋(さすがにラッピングなんてする勇気はない)にマフィンを詰め込み、左右田を探すべく旧館を出る。
(さて、どこに……あれ?)
左右田の行きそうなところを思い浮かべていたところで、本人を発見してしまった。
キョロキョロと落ち着きのない様子で辺りを見回す左右田と目が合ったところでどきりとする。
(何驚いてんだ、普通にしろ普通に)
挙動不審にならないよう突っ立ったままでいると、左右田が手を振りながらこちらへと近付いてきた。

「日向!オメーどこ行ってたんだよ、探したんだぞ!」
「あ、あぁ…悪い。ちょっと用事があって」
「用事ィ?…っつーか、なんだその荷物」

当然ながら、両手で抱えた二つの紙袋に左右田が気付かない訳もなく…指摘を受けてしまった。
言っていいものかと躊躇したけれど、結局のところ言わないと話が進まないというのも分かっているので、ごくりと唾を飲みこんでから口を開いた。

「ああ、これは…その、」
「んだよ、オレには言えねーモンでも入ってんのか?」

すぐには答えられない俺を見て、左右田はどこか不貞腐れるように呟く。
その様子がまるで子供みたいで、思わず吹き出してしまった。すると当然ながら左右田に睨まれてしまう。
睨まれるのは居心地が悪いけれど、笑ったおかげでいい具合に力が抜けた。

「違うよ。これは左右田に渡す分」
「へ、?」
「バレンタインだからさ。ほら、早く受け取れって」
「お、おう…って、バレンタイン!?」

俺の言葉に、左右田は心底驚いたように声を上げる。
それはそうだろう。恋人とはいえ、まさか同性からバレンタインの贈り物が貰えるなんて考えないだろうから。
俺だって渡す気はなかった(というかバレンタインの存在すら忘れてた)んだから、受け取る側だって同じ筈だ。
けれど、左右田は袋を受け取るや否やがさごそと音を立てて口を開き、中身を確認してから顔を上げ…なんともだらしない笑みを浮かべた。

「…なんだよその顔」
「う、うっせ!だってバレンタインだぜ!?つーかこれ手作りじゃね!?」
「そうだけど」
「マジで!?」

つい手作りだと言ってしまった。しまったと思っても後の祭りだ。
聞いた途端、左右田は驚きの声を上げ、再度だらしない笑みを浮かべる。
だらしないけど、心底喜んでくれているのが伝わってきて、こっちまで嬉しくなるのだからおかしなものだ。

「と、とにかく、左右田の分は渡したからな!」
「は?オレの分?」

この場にいるのが恥ずかしくて、なんとか逃げよう、離れよう、とつい口が滑った。
俺の言葉に、左右田の表情が一気に険しいものになっていく。
しまったと思ってももう遅い。
後退りしたところで腕を掴まれ、逃げるに逃げられなくなってしまった。

「離せって、」
「オレ以外のヤツにもやんのかよ!日向はオレの恋人だろーが!」

恋人、という言葉を聞いた途端、顔が熱くなるのがわかる。
ほんの少し俺より背の低い恋人は、不満げな表情でこちらを見上げてきた。
怒りの篭った視線を真正面から受けて目が離せなくなる。そのまま固まっていると、ぐいと引っ張られて気付けば左右田にキスされていた。
それは一瞬の出来事で、すぐに離れてしまったけれど。

「左右田、」
「な、なんだよ!」
「……顔、真っ赤だぞ」
「!!!うっせ!!オメーもおんなじだから同罪だ!」

恥ずかしくてつい憎まれ口を叩けば、左右田は真っ赤な顔で怒鳴りつけてくる。
怒鳴られたところで全く怖くないけれど、その様子から左右田が俺を好きだというのが伝わってきてじんわりと心が温かくなった。

(早とちりだって言ったら、ますます怒るかもなあ)

なんて言い訳しようかと思いながら笑いかければ、何笑ってんだ、と怒った左右田にもう一度キスをされた。




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