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幻水5、シグレ主 7話目。
サギリと王子の話、後半です。


* * * * *

「あ~~…おせぇなぁ」

先刻から何度も呟くのは同じ言葉。
時間が気になって仕方ない。うろうろと部屋を歩き回った挙句、オレはソファに腰掛け、煙草を吸う事にした。

(くそ、落ち着かねぇ)

普段なら落ち着けるはずの煙草の香りも、全くの無意味だった。

「シグレちゃん、さっきからそればっかりよ」
「ですねぇ。もう少し落ち着いたらいかがです?」

そんなオレとは対照的に、向かい側のソファに腰掛けている二人は呑気にお茶なんぞを啜っている。
…どこか楽しそうに見えるのは、気のせいか?

「…遅いもんは遅いんだから仕方ねーだろ」

煙草を吸うのを止め、オレはがしがしと頭を掻く。もはや癖となりつつあるこの仕草を見て、先生はにっこりと微笑む。
あぁ、これは確実に馬鹿にされる。そう思って項垂れた時。

「それはサギリさんが、ですか?それともアッシュ王子殿下が、ですか?」
「なっ…何でそこでアイツが出てくるんだよ!」

こんな時に聞くとは思ってもいなかった人物の名前が出て、オレは思わず先生を怒鳴りつけていた。

「あれ、違いました?おかしいですね、そうだと思ったんですが」
「あらら、そうだったのーシグレちゃん!」
「誰もそうだとは言ってねぇだろーが!」

怒鳴ったのにも関わらず、二人は気にもせず楽しそうに話し続ける。
オレが否定しても無駄だと言わんばかりに勝手に話を進める姿を見て、オレは再び項垂れるしかなかった。



「…ただいま」
「失礼します…って、あれ、何だか賑やかですね」
「!!」

そんな時、話題の人物がやってきたのだから、オレの驚きようといったらなかった。
キセルを銜えていたら確実に落としていただろう。驚いて、あんぐりと口を開ける自分の姿が情けない。
そして、やはりというかオレとは対照的な二人はにこにこと笑ったまま。

「おや、王子。いらっしゃいませ。それにサギリさん、おかえりなさい」
「あらあら、王子様にお見苦しい所を見せちゃってすみません!サギリちゃんもおかえりなさい!二人にお茶入れますからね、待っててね」

そうやって、当然のように受け入れている姿を見たら、オレも同調するしか道はなかった。
背中に汗をかきながらも、動揺を隠そうとオレは視線を彷徨わせる。
目の前にいる王子とサギリは、横の二人と同じく微笑んだままだ。

「~~~…まぁ、時間あるならゆっくりしてけ。それとサギリ、お前帰ってくるのおせぇよ」

思いついた言葉を吐いて、サギリをじろりと睨みつける。しかし、サギリはそんな視線をものともせず。

「そう?王子様と一緒にいたから、時間なんて忘れてた」

けろりとした顔で、そんな返答が返ってきたのだからどうしようもない。
しかも、隣にいた王子はぱっと顔を輝かせ、嬉しそうにサギリに微笑んだ。

「僕も、楽しかったから時間なんて忘れてました。同じですね!」
「…そうね」

本当に嬉しそうに微笑んでいる王子と、どこか嬉しそうに微笑むサギリ。
そんな二人のやり取りを見て、オレは驚いて二人を見つめる。

(サギリが…人と一緒にいて。時間を忘れた?・・・つまり…楽しかった、って事か?いやまさか、そんな)

真っ先に浮かんだ答えはたったひとつで、喜ぶべき事だと分かっているのに否定する自分がいた。
どうして否定するのか…それも分かっている。ただ単に、嫉妬しているだけなのだ。サギリと、王子に。

妹であるサギリが他人と共にいて、笑いあう事が嫌なのではない。逆だ。それは喜ばしい事だ。それは自分がサギリに望んでいた姿だ。
けれど…その相手が王子だからどうしようもない。

(あぁちくしょう、兄貴失格じゃねぇか!)

オレが嫉妬している相手は…サギリなのだ。実の妹。愛する妹。オレがこの数年間、守りに守ってきた相手なのだ。
認めたくはない。認めたくはないが、それが事実。
自分の感情をどうにか抑えようと、オレは深呼吸をして、二人に声をかけようと口を開ける。

「おやおや。ライバル登場、ですか?」
「あららー。シグレちゃん、勝てるの?」
「…っ、だから誰もそうだとは言ってねーだろうが!!」

しかし、そんなオレの考えは、何もかも分かっているのであろう先生と、楽しそうに眺めているフヨウの言葉でかき消される。
悔しさを紛らわせるべく、オレは二人を睨みつけ、本日二度目の怒鳴り声を上げた。


* * * * * * * * * *

シグレが大変な目にあっているような?
彼はもっと格好良いキャラだと思うんですが…
でも、お風呂イベントの会話を見る限り、心を開いてる相手には弱いのではないかと。
そんなシグレが好きです(笑)

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