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幻水5・シグレ主 2話目後半です。
* * * * *
「お前…、こんな所にいたのかよ…」
「あ、シグレさん。どうしたんです、そんなに急いで?」
珍しい事もあるものだ、と思った。
シグレさんが走っている姿を見るのも、急いで僕のもとへやってきた事も初めてだ。
それだけの事が何だか新鮮で嬉しくて、僕は自然と笑みを浮かべる。
「…何だよ」
「いえっ、何でもないです」
訝しげな表情で僕を見下ろすシグレさんは、どこか疲れた様子だった。
可笑しな奴だと思われただろうか。シグレさんは気紛れで、考えてる事もよく分からないから心配になる。
どう思われてるんだろう、と思うのと同時にシグレさんの事が知りたくなる。
そう思って、最近オボロさんに依頼をしたのを思い出した。
依頼対象人物は目の前にいるというのに、我ながら馬鹿だなぁと思う。
それと同時に、どうせなら直接聞いてしまえばいいんだ、という考えがふと浮かんだ。
「…で、だな」
「あの」
いざ聞いてみようと口を開けると、シグレさんの言葉も同時に重なる。
驚いてシグレさんを見上げると、長い前髪から見え隠れする切れ長の瞳がかいま見える。その目が僕と同じように驚いて瞬いている様子も見えた。
それを見てどきりとする。初めて見た、シグレさんの瞳。どうして見せようとしないんだろう、という疑問が浮かび、聞いてみようかどうしようか、とためらってしまう。
どうしたら良いものか、と思ったら、シグレさんは面倒くさそうに頭をがしがしと掻いて、いつの間にか取り出していたキセルで煙草を吹かし始めた。
「あー、めんどくせぇな」
「はぁ、すみません」
頬を掻きながら、会釈程度に頭を下げると、シグレさんは勢いよく煙を吐き出して(きっと、溜め息混じりなんだろう。また呆れられてしまったかもしれない)から、再び口を開いた。
「聞きたい事がある」
「はい、何ですか?」
「…何で先生に依頼した?」
「……え」
さっきまで考えていた事を当てられたような気がして、つい聞き返してしまった。
まさかね、と首を傾げる僕に、シグレさんは再び煙草を吹かしてから答えてくれる。
「依頼だよ、依頼。オレの事調べようとしただろーが」
「え、何で知って…あ」
そう…思った通りの答えが返ってきた。偶然にしては出来すぎているんじゃあないかと思うくらい。
思わず質問を投げかけようとして…はたと気付いた。
(依頼した事が…ばれてる?)
シグレさんの反応を見て、僕がオボロさんに頼んだ事が洩れている、と分かった。
ただでさえ呆れられているというのに、これ以上失態を見せてどうするんだ、僕は。
「……視線を感じたからな」
「えっ、いや、あの」
慌てる僕を尻目に、シグレさんは淡々と答えてくれる。どうしよう、また呆れられてしまう。
冷や汗を掻きつつも、僕はどうにかして誤魔化そうと必死になる。
けれど、こういう時に限って言葉は出てこない。
どうしたら良いのか分からなくて、僕はシグレさんを見る事が出来なくて俯いてしまった。
すると、上から降ってきた言葉が、ひとつ。
「どうでもいい奴相手に調査なんか依頼すんじゃねぇ」
…と。
その言葉の意味が分からなくて、恥ずかしさも忘れ僕は顔を上げる。
「え?あの」
「オレなんか調べたって楽しくなんかないだろ。別の事を調べるのに使え、って言ってんだよ」
シグレさんは相変わらず煙草を吹かしたまま。どこか寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。
でも今はそんな事を気にしている場合じゃなかった。シグレさんの言葉が気になって…、僕は思わず否定していた。
「ど…どうでもよくなんかないですよ!」
気付けば大声を上げて。
目の前にいるシグレさんの表情は分からなかったけれど、どこか驚いた様子だった。
意味が分からない、とばかりに僕の言葉を待つシグレさんの視線を受けて、自分が何をしているのか分からなくなる。
「いや、あの、ですね。」
再び、冷や汗が背中を流れる。
シグレさんの視線は前髪のせいで見えないのにも関わらず、真っ直ぐに僕を見ているように思った。そう、どこか、寂しげなまま。
僕はどうにかして答えようと、自分の思ったままの言葉を告げる。
「何だ」
「つまり、その…僕にとってシグレさんは大事な仲間であってですね。仲間の事を全く知らないというのは良くないなと思って、その…」
話しているうちに、どんどんと声が小さくなってゆく。
それでもシグレさんは僕の言葉をきちんと聞いてくれる。そうして、言葉が途切れると、シグレさんは最初の質問を切り出した。
「調査を依頼した、ってか」
「……はい、すみません…」
「謝るな。大体何でオレなんだよ」
肩を落とし、本当に申し訳ないと思って精一杯謝った。
シグレさんは調査なんて嫌いだろうから、絶対怒るとばかり思っていたのに、返ってきたのは質問だけ。
僕は驚きながらも、シグレさんの質問に慌てて答える。
「あ、ですから大事な仲間だからです。シグレさんの事が知りたかったんです」
「………阿呆か、お前」
「こ、今度は何ですか」
突然そう言われ、思わず身構える。
目の前にいるシグレさんは、頭をがしがしと掻いて(これは癖なんだろうな、と思う。面倒くさい、という表れなんだと気付いた)呆れたように、煙草の煙を勢いよく吐き出して。
「……他にも、いるだろ。お前の大事な仲間って奴はよ」
どこか遠くを見るように。
僕からは瞳が見えないのに、シグレさんはどこか遠くを見ているように見えた。
それが何だか寂しくて、僕は再び声を荒げていた。
「そうですけど…でも、シグレさんも大事な仲間です!僕にとって大事な人なんです!」
思いっきり、大声で。
そう、思い切り、僕はシグレさんの言葉を否定した。
気付いた時にはもう遅い。シグレさんの動きは止まり、それだけじゃなくて、辺りにいる人たちも何事かと僕たちを見ている。
やってしまった。
あぁ、どうして僕は後先考えずに行動してしまうんだろうか。これじゃあシグレさんに呆れられても仕方ない。
……けれど、やってしまったものは仕方ない。そう、前向きに考える。
このままじゃあどうしようもないと思った僕は周りの人に誤魔化すように笑いかけ、何とかその場を凌ぐ。
幸い、周りの人たちもすぐに興味を失ったようで、その場に留まる人もいなかった。
そこでようやく安心した僕は、ふとシグレさんに目を向ける。
どうしたことか、シグレさんはその場に固まったままだった。僕は不思議に思って声をかける。
「あ、あの、シグレさん?」
目の前で手を振ってみたりして。
すると、漸く我に返ったのかシグレさんに後退りされてしまった。どうしたんだろう。こんなシグレさん、初めて見た。
「…ッ、な、何でもねー。とにかくっ、オレの事なんか調査するな!いいな」
「う…わ、分かりました…」
驚いていた所に忘れかけていた『調査』の話題を出され、僕は咄嗟に反応できなかった。
…それに。仕方ないけれど、諦めるしかない。
シグレさんが不快な思いをしてしまうのなら調査は諦めるしかないだろう。そう思って深く頷いた。
僕の返事に満足したのか、シグレさんは僕に背を向ける。
「…じゃ、用も済んだしオレは行くからな」
「あ、はい。すみませんでした」
そう言って、素早く歩き始めるシグレさん。
僕はその背中を見ている事しかできなかった。
(…嫌われてないといいんだけど…無理、かな)
今までのやり取りを考えると、呆れられるどころか嫌われても仕方ないのかもしれない。
そう思って、肩を落とし、顔を俯かせて深く溜息を吐いた。
「……あー、それとな」
「はい?」
沈んで俯いていた顔を上げると、振り返ったシグレさんの姿。
どうしたんですか?と僕が聞いてみようかと口を開けた時。
「…聞きたいなら、直接来い」
「へっ?」
出てきたのは、質問ではなく驚きの言葉。僕はシグレさんの言葉を思わず聞き返していた。
するとシグレさんはもう一度、答えてくれたのだ。
「…知りたいなら、直接オレんとこへ来いって言ってんだよ。分かったな」
それだけ言って、再びシグレさんは僕に背を向けて歩き出す。
言われた言葉を何度も頭の中で繰り返し…僕は。
「は……はい!そうします!」
嬉しくなって、笑顔でそう返事を返したのだった。
* * * * * * * * * *
ここまでお付き合い下さりありがとうございました!
長くなってしまいましたがようやく完成…
王子は自分で気付いてませんがシグレが気になる存在になっております。
で、シグレはというとすでに王子を気にしてますが(笑)、今回ので更に~、と…いう事で。
この二人は進展遅いと思うんですが…どうでしょうかね…?
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