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ミニゲームからのネタ。
* * * * *
「あぁ~~~…また負けたぁ」
そう言って、向かい側に座っていた王子はがっくりと肩を落として深い溜息をつく。
オレはただただ呆れるばかり。キセルを取り出し、煙草を味わいながらぽつりと呟いた。
「弱いな、お前」
「ホンット、王子様弱いわねー。アタシに勝ってた時の強さはどこに行ったのよ?」
横で見ていたリンファも呆れたように王子をつつく。
すると、賭け事なんて慣れちゃあいない王子様は、再び落ち込んだように肩を落とした。
「うぅ…あれはただの運です…」
見ていて哀れに思ってしまう程に王子は落ち込んでいた。そう、容赦なく叩きのめしたオレが悪いのかと思ってしまうほどに、だ。
しかしそんな考えをかき消すように、オレは横に立っているリンファに話しかける。
「ホントに勝ったのかよ?」
「ま、認めるのもシャクだけど本当よ。…に、しても」
リンファは肩をすくめ、オレを無遠慮に見てきた。
頭の天辺から足の先まで、隅々と見られているような気がしてうんざりしたオレはリンファを睨みつける。
「あ?」
「シグレ、アンタも容赦ないわよね。…あ、もしかしてあれなの?好きな子ほど苛めたいってやつ?」
「・・・は?」
思いもよらない事を言われ、睨みつけていた瞳を見開いてしまった。その間にもリンファはけらけらと笑いながら話し続ける。
「そうだとしたら23にもなってガキくさ!って感じよねー」
「おい、勝手に妄想広げんなこの借金女」
人が驚いている間にも勝手な想像を広げるリンファに苛ついて、オレは再び睨みつけながら悪態をつくしかなかった。
すると、根は単純なリンファはオレの言葉に簡単に食らいついてくる。
「なっ、何よこのナマケモノ!」
「お前に言われたくねぇ」
フン、と鼻で笑ってやるとリンファは案の定怒り狂ったようにオレを睨んでくる。
しかしそんなものは痛くも痒くも無かったため、オレは視線をリンファから先刻から喋ろうとしない王子へと向けようとした・・・その時。
「…シグレさん!!」
「「!!?」」
突然、王子が大声で話しかけてきたのだから驚いた。
オレは正面に座っている王子を凝視するしかなかったし、それはリンファも同じようだった。
そして、驚かせた張本人はオレ達の様子を見て自分の声の大きさに気付いたのか(こいつも相当鈍い。…以前から分かっていた事でもあるが。)、慌てたように喋りだした。
「あっ、すみません。話の邪魔しちゃいましたか?」
「…いや。で、何だよ」
「ちょっとぉ、アタシの意見は無視?」
こいつの言い分を聞こう、とオレはリンファを無視したまま王子の言葉を待った。すると、王子はどこか恥ずかしそうに言い淀んだあと、決心したように口を開いた。
「あの!僕にギャンブルで勝つコツを伝授して下さい!」
…そんな、王子の口から出るとは思えない頼みごとを聞いて、オレは再び王子を凝視してしまった。
ぎゅっと拳を握り締めたまま、そしてどこか恥ずかしそうにほんのりと頬を紅く染めた王子は、それでも真っ直ぐにオレを見つめてくる。
「…何、だって?」
オレの視線など気にしていない(というか、気にしていられないのだろう)王子は、先程とは違い、決意した言葉をすらすらと述べていく。
「このままじゃ、ロイがリンファさんに作った借金も僕が負けた分も払えそうにないし…僕に勝つコツを教えてほしいんです!」
王子の言葉を聞いて、まずおかしいと思うオレはおかしいのだろうか。
ロイの借金は王子とは無関係だし、こいつ自身の負け分だって今の所持金で賄えるはずなのだ。
けれどきっと、このお人よしの王子様は『仲間の為に使うお金です』と言って、使おうという考えはないのだろう。
(その辺りがお坊ちゃま思考だと思わなくも無い)
オレは呆れながらも王子を眺める事にした。
「…はぁ。」
「教えてあげたらぁ?」
すると王子に予想外の助っ人が登場した。
オレの横にいたリンファはにやにやと笑ったまま、王子にあっさりと賛同したのだ。
「何でだよ」
「だって、元はと言えばその借金ってアタシのせいだし?それに…」
「?何だ、はっきり言え」
オレが睨みつけてもリンファはにやにやと笑ったまま。
王子がじっと見ているというのに、こっそりと耳打ちをしてきた。
「好きな子に1対1でプライベートレッスンなんて素敵じゃない?」
「!な…テメ…」
そう、囁かれた言葉は考えもしていなかった事で…オレは動揺して、キセルを危うく落としかける(こんな事が以前にもあった。オレは動揺しすぎなんじゃあなかろうか)。
しかし、そんなオレの様子にも気付かない王子は、必死な顔で懇願してきた。
「あのっ、無理ですか?」
「う・・・」
本当に、オレはこいつの目に弱い。
現に今も王子の視線に負けそうになり、目を合わせないよう必死だった。
そんなオレ達をリンファは面白そうに眺め、それどころか王子に加担するばかり。
「ほらほらぁ。人助け人助け~」
「ちっ…仕方ねーな」
王子の視線とリンファの言葉にあっさりと観念したオレは、煙を勢いよく吐き出してから軽く頷いた。
すると先刻までの落ち込んだ様子は何処へやら、王子の表情が一気に明るくなる。
「!いいんですかっ!?」
「…今回だけだからな」
「はっ、はい!それで十分です、ありがとうございます!」
オレの言葉に、王子はますます顔を輝かせる。嬉しそうに笑って、勢いよく礼までしてくる。
其の様子に呆れながらも、こいつと居られるなら良いか、などと考えている自分がいた。
(あぁ、こいつを馬鹿になんか出来やしねぇ)
そして相変わらず、リンファは面白そうに笑ったまま…
「頑張ってね~二人とも!それとぉ、王子様は気をつけてね?」
「はい?」
そんな、意味深な言葉を王子に告げるものだから、オレは慌てて立ち上がって二人に背を向け歩き出す。
早くこの場を離れなければ、王子に何を言うのか分かったものじゃあない。そう実感したのだ。
「おいっ、行くぞ」
「あ、は、はい!」
オレの考えなんて知りもしない王子は、慌てて立ち上がりオレの後をついてくる。
王子の気配を背中に感じて、安心して溜息をついた、その時。
「ふふー…面白くなってきたじゃない?」
そんなリンファの呟きなんて、聞こえなかった事にした。
* * * * * * * * * *
リンファにもばれてた!の巻。
シグレって実は分かりやすいんじゃあないかなと思ったので。
この話は、リンファのミニゲームでシグレと対戦できると知った時から
考えていた話だったので、漸く書けて満足です。
どうせだからこの後、教えてあげたご褒美を貰うといいよ…!