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幻水5、シグレ主 16話目。
へたれシグレの悩み。


* * * * *

最近よく、『あいつにこの気持ちを伝えたら、どんなに楽だろうか』なんて事を考えている。
しかし同時に『家族だ、仲間だと言っている相手に言えるのか?』『拒絶されたらどうする?』とも、考えずにはいられない。

そんな考えが堂々巡りと化しているのだから、言えるはずもない。言う勇気も出ない。
毎日のように考えては沈み、深い深い溜息を吐いていた。


そう…毎日、気付けばそればかりを考えていた。
事務所にいる時も、戦っている時も…目の端にあの王子が映るたびに。




「…シグレ!」
「っ、や、べ…!」

サギリの声に我に返る。
まただ。また、あいつの事を考えていた。
戦いの最中だというのに集中力を欠いた結果がこれだ。
眼前には牙を剥いた獣が迫っていて、咄嗟には反応できなかった。
やられる。
そう思って観念して、思わず目を瞑った。
どうせ怪我をするのなら、やられる瞬間なんて見たくもない。

「…………?」

けれど…いつまで経ってもその痛みがやってくる事はなく。
ゆっくりと瞳を開けてみると、目の前には銀色の光と、朱い彩り。
不意に銀と朱が揺れ、その人物が振り返る。
そうして、目が合ったのは。

「お前…!?」
「…あ、シグレさん…大丈夫、ですか?」

こんな時であろうとも笑みを絶やす事のない、王子殿下だったのだ。
辺りを見回すと、護衛の奴らも驚きを隠し切れない、といった様子だった。
それはそうだろう。護られるべき王子殿下が、オレなんかを庇っていたのだから。
王子の足元には先刻オレに襲いかかってきた獣が倒れていて、どうやらこの王子殿下はオレを庇っただけでなく、敵を倒したのだと判断できた。
オレはただ唖然としたまま王子を見つめる事しか出来ず、その様子を見て王子は焦り始める。

「あの、えっと」
「お前…何で、こんな事してんだよ」

そんな王子に対して出てきた言葉といえば、感謝の気持ちでも謝罪の言葉でもなく…責めるような口調での質問だけ。
言ってから王子の肩がびくりと震えるのが見えて、オレは逃げるように背を向けた。

「…迷惑でしたか?」
「……っ、」

辛そうな王子の言葉が背中に刺さる。
この王子は強い。強いから、傷つく事があっても泣く事なんてしないのだろう。
それに傷ついても、仲間が助けてくれるだろう。オレ以外の、大事な仲間が。
だから、言ってしまえばいい。たとえそれが傷つける事になるとしても、言ってしまえばいい。

『迷惑だ。もう、余計な事をするな』

言ってしまえば、こいつがオレを気にかける事もなくなるし、庇う事だって、その所為で怪我をする事もなくなる。
そうすれば…この気持ちを言わずに済む。

そう頭では分かっているのに、言えなかった。代わりに出て来たのは

「…迷惑じゃ、ねぇよ」

緊張のせいだろうか、からからに乾いた喉から出て来たのは否定の言葉だけだった。
言ってから、どうしてこうなんだと自分で自分を罵倒する。
諦めれば楽だというのに、どうして。

「…っ、ほんとう、ですか?」
「……あぁ」
「本当に、本当ですか?」
「しつけぇな…迷惑じゃねぇっつってるだろ」

そこで漸く向き直ると、王子は泣きそうに顔を歪ませ…次の瞬間、泣きそうな顔のまま、笑って。

「…よかっ、たぁ…」

そう言って、王子は力が抜けたようにその場に座り込んだ。
思わず王子へと手を差し伸べると、王子はオレを見上げて笑う。

「あ、はは…なんか、力抜けちゃいました」
「…馬鹿野郎」

そんな王子の手を取り、立ち上がらせる。
触れた手は小さく、オレは離すまいとしっかりと握った。

(諦めりゃあ楽なのに…離したくない、なんて)

どうしてもそう願ってしまう。家族だから、仲間だから…離れたくない。
そう思う心は偽れない。
だから毎日悩んで、諦めて、諦め切れないで…

「シグレさん?」

オレが無言のままだからか、王子は不思議そうに見上げてくる。
手を離す事もなく、しっかりと握り締めたまま。
離そうともしない姿を見て、オレは安心してしまった。

(離さなくても良い…って、思っても、いいのか?)

心の中でそう呟いて、オレは手を握ったまま歩き出した。
王子は手を繋いだまま…離す事もせずに、オレの後をついて来る。
気付けば先刻までの悩みは何処かへ消えていて、オレはどこか吹っ切れたように歩き出した。


* * * * * * * * * *

シグレのへたれレベル最高潮。
庇われるってどんだけへたれなの…!(笑)
王子は、多分無意識のうちに庇っていたのだと思いますが、
その『無意識』というのはシグレに対してだけだと思います。
じゃなきゃ庇わないだろう、と。
そんな王子を見て、シグレもそろそろ決心した…のかな?

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