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幻水5、シグレ主 18話目。
タイトルまんまの話です。


* * * * *

いつものように事務所へとやってきた王子は、真っ先にオレのところへ来た。
他の奴らが見ているのにも関わらず、嬉しそうに笑いながら。

(分かりやすいヤツ…)

…まぁ、こいつの笑顔を見るのは嫌いじゃない。むしろ好きだ、と思う。
これからはずっとこいつの傍にいると決めたんだ。だから、嫌いになれるはずもない。
そう思って、オレも自然と笑みを浮かべた。



「シグレさん、シグレさん」
「何だ」

相変わらずにこにこと笑ったまま、王子はオレに話しかける。
何が嬉しいのかは知らないが、王子は実に嬉しそうにオレの名前を呼ぶ。
そんな表情をされたら、どう反応したら良いのか分からない。
だからオレは、相手の言葉を促す事しか出来なかった。
すると王子は一瞬動きを止め…そして決意したようにゆっくりと口を開けた。

「シグレ…さん」
「…?だから、何だよ」
「え?えっと、名前、です」
「そんなの聞いてりゃ分かる。どうして何回も呼ぶんだよ」

しかし、何を言うのかと思えばオレの名前を呼んだだけ。
何か伝えたい事でもあったのか、と聞ければ良いものの、そんな素直な性格をしていないオレは責めるように問う事しか出来なかった。
そうすると、王子は今度こそ動きを止め…聞き方が悪かったか、と思ったその時に、再度王子は話し始めた。

「あー、それは…ですね」
「それは?」

オレの聞き方など微塵も気にしていないらしい王子は、薄らと頬を赤らめ、少しだけ視線を逸らしてからあっさりとオレの求める答えを口にした。

「えーと…シグレさんに僕の事を名前で呼んでほしくてですね、まずは僕がシグレさんの事を呼び捨てで呼んでみよう!と思ったんですけど…どうやら無理みたいです…」

はぁ、なんて分かりやすい溜め息を吐いてから、王子は何時の間にか机の上に置いてあったお茶を飲み始める。
そしてオレはというと、王子の言葉に唖然としてしまった。

(名前、だぁ?)

言われてみれば、オレは一度たりとてこいつの名前を呼んだ事はない。
呼ぶ時は王子殿下、だのお前、だの…全くもって、名前を呼ぶ機会もなかった。
(と、いうよりは名前を呼ぶのがどうにも気恥ずかしかったからだ)
それを、この王子殿下は気にしていたという事か。

「あ、もちろん出来れば、でいいんです。一度くらい聞いてみたいなーと思っただけなので」

オレがそんな事を考えている間に、王子はどこか恥ずかしそうに笑って「気にしないで下さい」などと言っている。
そんな風に言われたら、行動するしかない…ような、気がした。

(そうだ、傍にいると誓ったんだから、これくらい…)

そう思って、王子殿下の名前を心の中で反芻する。
名前を忘れている訳じゃない。
ただ…今更呼ぶというのが気恥ずかしいだけなのだ。そう、決して嫌という訳ではない。

(…言ってやろうじゃねぇか。それで、こいつが喜ぶのなら)

決意してから王子に目をやると、今度は茶菓子に手を出しているのが見えた。
こいつがここに来る目的はオレなんかじゃなく、いつも美味いと絶賛している茶菓子が目当てなのではないか…などと馬鹿な事を思いながら、オレはゆっくりとその言葉を呟いた。

「    」
「えっ」
「お前の名前。確かに呼んだからな」

言うだけ言って、王子と目を合わせるのも照れくさくなったオレは席を立つ。
がたりと音を立てるソファには目もくれず、そういえば依頼された調査があったのだと思い立って走り出した。

「し、シグレさん!?」
「じゃあな。…まァ、お前はゆっくりしてけ」

王子が驚いたような声を上げるものだから、咄嗟にそう告げていた。
しかし…この所為で後で会った時にはどんな顔をして会えばいいのか、と頭を悩ませる羽目になったのもまた、事実。


* * * * * * * * * *

ようやく両思いになった事だし名前で呼んでやれシグレ!
…と、思って書いたものの、名前の部分が空いてます。

うちの王子はアッシュという名前にしてましたが、
この名前って愛称にもなるんですよね。
…となるとファースト・ネームはアスランになるのかな…
「アスラン」は「夜明け」という意味らしいので(某漫画情報)
ファレナ国の王子としては良いなーと思うのですが、
アスランっていうとガンダムが出てくるんだよなぁ(笑)

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