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幻水5、シグレ主 22話目。
ふたたびバレンタインネタです。

* * * * *

「シグレさん、あの」
「…また何か持ってきたのか?」
「えっ」

その言葉を聞いて、背中に隠したプレゼントを危うく落としそうになるのを何とか堪えた。
対するシグレさんは何事もなかったかのように煙草を吸い、呑気に新聞を読んでいる。
こちらを見てもいないのに、どうして分かったんだろう。

「ま、まだ何も言ってないですよ!?」
「…お前な…サギリに扉を開けさせてる時点で分かるに決まってんだろ」
「あ…」

そこで漸くシグレさんは顔を上げてこちらを向いた。(う、あの顔は絶対呆れてる…)
隣へと視線を向けると、可愛らしい微笑みを浮かべるサギリさんと目が合った。どこか楽しそうに笑っている、ように見える。
気付かれないように、と開けてもらったはずなのにまったく無意味だったのか。
目論見が外れてがっくりと肩を落としていると、何時の間にかシグレさんが目の前に立っていた。
驚いて見上げた途端、ぐいと腕を引かれていつものソファのところまで連れて行かれる。普段の定位置まで移動して、シグレさんはだるそうにソファへと座り込んだ。
どうしようかと一瞬ためらったけれど、僕は勇気を出してシグレさんの隣へと座った。緊張するけれど、渡さなくてはならないものがあるのだから、と自分を叱咤する。

「…で、今回は何だ?」
「へっ」
「その箱の中身だよ。またチョコレートか?」

にしては包みが普通だよな、と口の端を上げて薄らと笑うシグレさん。
その言葉にぎくりとして、緊張していたせいか咄嗟に返事ができなかった。
そんな僕を見かねてか、サギリさんが目の前のソファに座り(しかもお茶まで用意してくれてる!)微笑んでからこう言った。

「…シグレ。王子様、困ってるよ」
「困る、ってお前…ガキじゃあるまいし」

サギリさんの指摘はまったくもってその通りで、僕は何も言えずに苦笑するしかない。
しかしシグレさんは隣の僕を気にする事無く煙草を吸い始め、呆れたように息を吐く。
ふわふわと浮かび上がる煙は円形の、いつも見慣れたものだった。それを眺めながら、持ってきたものについてどう切り出そうかとぼんやり考える。
考えている横で、シグレさんたちの会話はまだまだ続いていた。

「王子様を困らせちゃ、だめ。大切なひとなんだから」
「っ……」
「えっ?」

けれど突然出てきたその単語に思わず反応してしまい、驚いた僕はサギリさんをまじまじと見つめる。
目が合うとふんわりと微笑まれ、それだけで全てお見通しなのだと言われているような気がして、僕は顔が熱くなるのを自覚しながら肩を窄める。
隣にいたシグレさんは煙草の煙を吸い込んでしまったらしくげほげほと咳き込んでいたけれど、頬が薄らと赤くなっているように見えた。気のせいじゃない、と思う。

「とっ、とにかくだな。その箱は何なんだよ」
「あっ、これは、ですね…」

話題を変えるように話しかけてきたシグレさんに急かされて、僕は持っていた箱をテーブルの上へと置いた。
開けようかと思ったけれど、どうにも気恥ずかしい。
しかしシグレさんは僕が躊躇っているのに気付いたらしく、ひょいとその箱を持ち上げて手元へと寄せて簡単に開けてしまった。
そして、中身を確認してから呆れたように溜息を吐かれた。(またやってしまった、と思ってももう後の祭りだ)

「やっぱりチョコレートじゃねぇか。何で言うのを躊躇うんだよ」
「う…それは…」

どうして、と聞かれても答えにくい。
そりゃあ、答えなんてはっきりしているし、言うのだって簡単なことだ。けれどやっぱり恥ずかしい、という気持ちが邪魔をする。
はっきりと答えられなくて、口を閉ざしたまま俯く。すると、暖かい手の平がゆっくりと頭を撫でてくれた。

「…まぁ、お前が言いたくない、ってんなら聞かねぇよ。…悪かったな」

そんな優しい言葉が降ってきて、思わず顔を上げればそこには困ったような表情のシグレさんがいた。
長い前髪から見え隠れする瞳は先刻の言葉と同じく優しいもので、見た途端に泣きたくなった。
そうだ、僕が何も言わなくても怒ることなく心配してくれる人なんだ、シグレさんは。それを知っているから甘えたくなる…けれど、それじゃあ駄目なんだ。
恥ずかしい気持ちは消えることがないけれど、こんな風にシグレさんに心配をかけるなんて以ての外だ。これくらい、我慢しないと。
普段は王子としての自覚を持って皆に甘えないようしていたんだ。それがこれくらいのことで甘えようとするなんて、僕はいつの間に弱くなってしまったんだろう。シグレさんとこれからも一緒にいるためには、もっと強くならなくちゃいけないのに!
そう思ってぎゅっと拳を握り締め、しっかりと顔を上げ、真直ぐにシグレさんを見つめる。
するとシグレさんはこちらの様子の変わったと気付いたのか無言のままで見返してきた。ああ、緊張する。緊張するけれど、言わないと。

「あ、あのっ、ですね。このチョコレート…僕が、その、作ったんです!」
「……は、ァ?」
「ですからそのっ、僕の手作りチョコレートなんです!シグレさんに食べてもらいたくって、えと、その…」

気合を入れて勢いよく言ったものは良いものの、どんどん尻すぼみになっていく言葉たち。
たったこれだけの言葉を言っただけだというのに、治まっていた顔の熱も戻ってきた。視線を逸らし、再び俯いてしまう。
そう、たったこれだけ。自分で作った、と言うだけなのにこれだけ緊張していたのだ。恥ずかしいったらない。女の子じゃあるまいし、どうしてこんなに恥ずかしがる必要があるんだろう?
…なんて、言い訳がましく考えたって仕方がない。だって、今日はバレンタインだ。好きな人に手作りのチョコを贈るとなれば、緊張するのは当たり前じゃないか!

「……おい」
「えっ、あ、はい!な、何でしょうっ!」

ぐるぐると一人で考えていたせいで、シグレさんの呼びかけに反応が遅れた。
慌てて見上げてみれば、そこには顔を赤く染めたシグレさんがいた。まさかの反応に驚いて見ていると、それに気付いたシグレさんに抱き寄せられる。

「ジロジロ見るな、阿呆」
「あ、すみませんっ」

突然抱き締められるとは思ってもいなかったけれど、それはシグレさんも恥ずかしいからだと分かったので、僕は嬉しくなる気持ちを抑えながら謝る。
しかしそれが声に出ていたのか、シグレさんは本日何度目かの溜息を吐き

「くっそ…覚えてろよ、テメェ」

そう呟いてから、さらに強く抱き締められた。
シグレさんからは煙草の匂いがして、僕にとってはすごく落ち着く香りなんだ、と今更ながら気付く。

(答えてよかったな)

そう素直に思ってから、僕は抱き締め返すためにシグレさんの背中へと手を回したのだった。


* * * * * * * * * *

サギリが途中から空気になってる…!
多分、二人の様子を微笑みながら見守っていることでしょう。
(そして後でオボロさん&フヨウさんに報告)
(シグレいい迷惑)

題名の「アンベローア モア」というのは
フランス語で「私をつつんで!」という意味だそうです。

書き終わってから題名がさっぱり思いつかなかったので、
色々バレンタインチョコのパンフを見ていたら見つけまして…
最後抱き締めてるし、いいかな…と…
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