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幻水5、シグレ主 23話目。
ホワイトデーのお返しについて。


* * * * *

「お返しィ?」
「そうよーシグレちゃん!先月王子様に貰ったんでしょう?それにお返しするのは当然の事なのよ?」
「ふーん…」


フヨウさんの言葉を聞きながら、のんびりと煙草を吸って生返事を返す。それと同時に、先月の事をぼんやりと思い出していた。あいつに貰ったチョコレート。そして、その後の事も。

(結局、終始慌てて真っ赤な顔のままだったしなァ…オレが悪者扱いされたっつーの)

思い出すだけで溜息が漏れる。
女王騎士の奴らの冷たい視線、それを眺める人間の生暖かい視線…まったく、戦争中だというのに暇な奴らが多すぎるんじゃあなかろうか。
そんな中であの王子殿下を連れ出すのは至難の業でもあったのだ。今回もまた、同じ目に遭えというのか。

「めんどくせェな…」



何を返せば喜ぶか、なんて皆目検討もつかず、うだうだと考えているうちにイベント当日になってしまった。
当然何も用意していなかったオレは、焦った挙句に普段なら考えつかない結論に辿り着いた。
それであいつが喜ぶのかと聞かれたら、答えは「分からない」、だ。むしろオレが喜ぶ選択肢を選んだような気がする。
(それじゃ「お返し」とやらにならないだろう、と言われたら元も子もない)
…けどまぁ、物は試しだ。やってみようじゃないか。
今までの事件で度胸がついたのか、オレはそう結論付けてからあの王子殿下を呼び出した。


「シグレさん、お待たせしましたっ」
「おう、わざわざ悪いな」

息せき切って事務所へやってきた王子の頬はほんのりと赤い。走ってきたのだろうが、そこまで急がせるつもりもなかったオレは自然と労りの言葉をかけていた。
間違っても一介の探偵助手が王子にかけていい言葉ではない。けれどそんな事を気にする人間はここにはいない。
今日は珍しく、オレ以外のメンバーは全員仕事に出かけている。つまりは二人きり。意識すると緊張するのだが、そうも言っていられない。
重い腰を上げ、王子をソファへ座るよう促してから茶の用意をしていると、背中に視線を感じた。茶と茶菓子を盆に乗せてから振り向けば、驚いたようにこちらを眺めている王子と目が合った。

「何だよ、その目は」
「あ、いえ!…シグレさんがお茶を用意してくれるのが新鮮で、つい」
「……まァ、いいけどよ。味の保障はないしな」

言いながら茶を渡すと、王子は嬉しそうに微笑みながら受け取る。味の保障はないと言ったんだが、聞いてなかったのかこいつは。
オレは向かい側のソファへと座り淹れたての茶を啜る。不味くはない。王子の口に合うかどうかは分からないが、恐らく文句は言われないレベルだろう。
そこで目の前に座っている王子へ目を向けると、飲んでからも笑みを浮かべていたので、どうやら大丈夫だったようだ。これでオレも安心して茶が飲めるってもんだ。
…と、こうやってのんびり過ごしていると奴らが戻ってきてしまう。その前に用件を終わらせなくては。

「で、だ。めんどくせぇから単刀直入に言っとく。この間の礼を考えてみた」
「え、この前?のお礼?」

焦って暈した表現をしたせいで、相手には伝わらなかったようだ。王子は茶菓子を手に持ったまま首を傾げる。(しかし本当に甘味が好きだな、こいつ…)
きちんと伝えればよかったんだろうが、言ったら言ったで反応が予想できた為、あえて言わなかったのだが…止むを得ない、か。
ふう、と溜息を吐けば、王子は申し訳なさそうに肩を竦ませる。悪いのはオレだというのに、優しすぎる気性の所為か。だからこそ放っておけない。

「要するに…チョコレートのお礼、って事だ」
「えっ…えええ!?シグレさんが、チョコのお礼を!?」

答えを言ってやれば、予想通りの反応が返ってきた。王子は大きな目をますます大きくさせて、驚いたように口を開けたままこちらを見つめる。
そう素直に反応されると、分かっていたとはいえそこまでオレは薄情に見えるのか、と沈みそうになる。悪気がないのも分かっているから、文句も言えないが。
しかしそれが顔に出ていたのか、王子は慌ててすみません、と口走る。別に謝る事でもないだろうに、律儀なものだ。

「…とにかく、だ。そういうワケで、礼になるものを考えてきたんだよ」
「はっ、はい。ありがとうございます」

礼が何なのか言ってもいないというのに感謝され、今度は苦笑するしかなかった。
オレ自身、ここまで礼儀正しく対応されるような人間でもないし、しかも相手が王子殿下だというのだから余計におかしい(女王騎士たちがここにいたら何を言われるか分かったもんじゃない)。
けれどまぁ、こいつが満足するのであればそれでいい…ような気がする。いつの間に感化されたのだか分からないが、オレも相当丸くなったもんだと思う。
煙管を取り出して何時ものように煙草をふかせば、王子は相も変わらず興味津々といった様子でこちらを見つめていた。とりあえず、話を続けることにする。肝心の礼が何かを伝えなくてはならないのだ。

「お前が喜ぶかどうかは分からねェが…一日、ウチに来い」
「え?ここ、って…毎日来てますよ?」

要領を得ない様子で聞き返され、軽く言うだけでは伝わらないという現実を目の当たりにした。
…いや、こいつが鈍いのは分かっていた事だ。はっきりと告げなくては伝わらない事は先刻のやり取りで承知済みだった筈だ。
度胸がついたと思った癖に、肝心な所ではちっとも上手くいかないとはなんとも情けない限り。こうなったら言うしかない。煙を吸って一息ついて、オレはゆっくりと口を開けた。

「そういう意味じゃなくてだな…お前、ウチの家族になるっつっただろ」
「は、はい」
「だから、一日だけウチで暮らせっつってんだ。お前の部屋なんかよりこっちの方が気が落ち着くに決まってる。それにその方があいつらも喜ぶし、オレも」
「シグレさん、も?」

長ったらしい言い訳じみた説明の合間につい本音を漏らせば、普段はのんびりとした性格の王子殿下がしっかりと反応を示してきやがった。
ぎくりとして言葉を詰まらせると、対する王子はこちらを真直ぐに見据えている。こういう時だけ真剣な表情になるとは、王族ってのはそういうモンなのか?(まぁ民の意見をしっかり聞く事も重要な事だろうから一理あるといえばある、のか?)
観念してゆっくりと頷けば、つい先刻までの真剣な表情は何処へやら、頬を赤らめながらも嬉しそうに微笑むから始末が悪い。ああ、くそ。

「とにかく、だ!そういう訳で、お前が来たい時でいいから来いっつー事だ、分かったか」

伝えたい事は言い切った、とばかりに席を立ち、湯飲みを下げようと手を伸ばす。すると突然手を掴まれた。驚いて顔を上げれば、頬を赤らめたままの王子殿下と目が合う。
出来る事なら居心地が悪いこの場を離れたかったが、流石に手を振り払う事が出来るわけもなく…オレは無言のまま、手を離す事もなく王子をただ見返すしかなかった。
そのまま待つ事数十分…と思いきや、こういう時に時間の経過が遅く感じるというのは本当らしい。目を逸らして視界に入った壁時計を見れば数分しか経っていなかった。
このままでいるのもどうかと思い、何か話題を切り出してみようかと考えてはみるものの、どうも良い案が浮かんでこない。頭までやられてしまったのか。
思わず溜息を吐くと、びくりと肩を震わせて王子の手が緩んだ。そこで離せばよかったのだが、相手の怯えるような様子を見たら離す気もなくなり、どっかりと腰を下ろす。
しっかりと腰を下ろしてしまえばどういう訳か先刻までの落ち着かない気持ちも消え去っていて、それならばと再び煙管を取り出して煙草を吸い始める。
向かいに座ったままの(そしてオレの手を掴んだままの)王子は、目を瞬かせてからこちらをまじまじと見つめていたが、不意に手を離してから姿勢を正す。
そうしてお互い無言のまま、何をするでもなく。

(あぁ、何だよ)

居心地が悪い、なんてのは嘘だ。
一番安心する相手が目の前に居たというのに、オレは焦りすぎていたらしい。普段言い慣れないことを言った所為もあったのだろう。落ち着いてみれば先刻までの緊張は何処へやら、安心しきって煙草を吹かす自分がいる。
そうして落ち着いたところでよくよく考えてみれば、全くもって馬鹿馬鹿しい。
度胸もなければ頭の回転も遅いとは、恋の病とはよく言ったものだ。そんな病気などある訳がないと馬鹿にしていたが、どうやらそれは真実だったようだ。今までの自分に当てはまりすぎていて呆れてしまう。
あーあ、と溜息まじりに呟いてみれば、姿勢よく座ったままの王子はくすりと笑みを零す。
相変わらずお互い無言のままだったが、それでもいいと思った。居心地が悪いと思っていた空間は一瞬にして心地よいとさえ思える空間へと変化していて、このまま二人で居るというのも悪くないと思えた。

(ったく…熱でもあるんじゃねぇのか、オレは)

そう心の中で呟いてから、事務所の奴らが来たらどう説明したものか、と頭の隅で考え始めたのだった。


* * * * * * * * * * 

ひとりで自問自答のシグレでした。
このあと、いい雰囲気になった頃(シグレが何かしようとした時)に
事務所メンバーが入ってくると思います(笑)

「……入って、いいの?」
「う~ん、難しいところですねぇ。なんというか、こう…あのなんともいえない雰囲気の中に入っていいものか、という…」
「まさに青春!甘酸っぱい恋の味!って感じですものねぇ!あぁっもう、シグレちゃんもしっかり恋してたのね~」
「………甘酸っぱい?空気が?」

…と、こんな感じで。
いつまで経ってもシグレは不幸体質なヘタレのままです。(笑)

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